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2021/07/07 15:01

『この技術が世の中から消えるようなことがあってはならない』事業承継から商品化への道筋

難聴者にとどまらず、ろう者の方にも『音を感じた!』『もしかしてこれが言葉なの!?』と感動を与えている Vibone Nezu(バイボーンネズ)。

商品化に至る背景には、ソリッドソニック代表取締役である久保貴弘氏の決意と粘り強い取り組みがありました。

今回はその物語をご紹介します。

代表取締役の久保氏


経営への想い

時は2002年に遡る。

ソリッドソニック現代表の久保貴弘は、大学を卒業後、大手電機メーカーに就職した。

最初の配属は、自社工場の生産計画に合わせて取引先から部品を仕入れる調達の仕事だ。

ある時突然、上司から「A社に保管してある金型を引き上げてくるように」との指示があった。

わけもわからずA社を訪問し、金型を自社工場に運んだ。後にそのA社は経営が上手くいかずに

清算処理に入っていたことを知った。その時に「なぜA社はこの様なことになったのか」多くの

疑問が浮かび、会社経営というものに興味を持った。そして「いつか経営をやりたい」と思いながら、

その後のキャリアを積み上げていった。


事業承継との出会い

2016年のある日、自宅でテレビを見ていると「大廃業時代」という言葉が目に入った。

日本の中小企業経営者が高齢化し、後継者が不在であることによって廃業を余儀なくされている。

このまま廃業問題を放置すると、日本の国内総生産と雇用面に甚大な影響を及ぼすという話だ。

久保はこのニュースに非常に興味を持った。年齢も30代後半になり、今後の会社人生に色々と

考えを巡らせていた時期でもあった。調べを進めてみると、各都道府県に事業承継をマッチングする

機関があったり、インターネットでも個人間で事業承継の実施が可能なプラットフォームが存在する

ことを知った。久保は早速、居住する関西一円の事業承継機関に後継者登録を行い、インターネットの

プラットフォームからも情報収集を開始。実際に後継者を探している10名ほどの経営者に会いに行き、

事業承継について理解を深めていった。


田中との出会い


2019年のある日、神戸市の事業承継マッチングサービスからの電話が鳴った。「ソリッドソニックと

いう会社を紹介したいので一度経営者の方と会ってみませんか」ということだ。その経営者が現CTOの

田中だった。面談当日、彼がこれまで研鑽してきた技術を組み込んだ試作品を試聴させてもらった。

骨伝導で音を聴いているという感覚が無かった。クリアな音質でいつも使用している高性能イヤホンと

遜色がない。健聴者も難聴者も同じように音を楽しむことが出来る素晴らしい商品になる。

そんな可能性を感じた。また、話を聞くうちに、10年以上の年月をかけて難聴者の方々のために

コツコツと技術開発に取り組んできたことを知り、「この技術が世の中から消えるようなことが

あってはならない」と思った。


いざ商品開発へ


その後、2人は事業計画を検討。ベンチャーキャピタルや金融機関からの資金支援を得て、

2020年2月に無事、事業承継を完了、第1号商品となる Vibone Nezu の立ち上げを開始した。

デザインは落下や紛失を極力回避することを重視したネックストラップ方式を採用。

両耳の聴力が大きく違う方の使用感を高めるために、左右それぞれのボリュームを

調整できるようにした。更には、外部音声が聴こえる集音器の機能だけではなく、スマホなどの

外部機器と連携して音楽を聴いたり電話をしたりなど、使い方の幅が広がる様に3.5mmの

オーディオミニプラグも搭載した。また、お年寄りでも簡単に使用できるように操作パネル

にも工夫を施した。


開発トラブルの発生

発売日も決まり、商品立ち上げは順調に進んでいった。

しかし、問題は突然起きる。イヤホンの重要部品である振動子メーカーからの連絡が途絶えたのだ。

その振動子メーカーは零細企業で、年齢が80代半ばの社長はこれまで田中と一緒に振動子の作り込みを

行ってきた人物だ。調べていくと、高齢化による体力的な問題で仕事をうまく進められず、原材料の

調達や組み立て作業の人員手配が出来なかったようだ。

社長はそのことを言い出すことが出来ず、発売日まで3か月を切ったこの正念場になって、連絡が

途絶える形になってしまったのだ。実はこの様な状況になるリスクを認識はしていた。しかし、

先方の社長は田中と長く一緒に研究開発を行ってきたこともあるため、その関係を優先して

取引きすべきだと考えていた。社内リソースも限られている。その様な背景から第1号商品を早急に

発売することに集中し、2社目の振動子メーカーの開拓は、発売後に取り掛かろうと計画していたのだ。

そのリスクがこんなに早く顕在化するとは。。久保は頭を抱えた。

チーム一丸となって発売へ


しかし悩んでいる暇はない。発売日までの時間を考えると1ヶ月以内に部品を立ち上げなければ

ならない。新たな部品メーカーの開拓、契約、サンプル検証、評価、承認などやることは山積みだ。

ましてやこのコロナ禍だ。取引先の工場に行って現地で立ち上げることも出来ない。

全て遠隔でやらなくてはならない。

ただ、幸いにも部品の材料構成や工法は社内に蓄積している。久保は社内外の多くの関係者に

協力を求めた。元々田中と一緒に研究に取り組んでいた人々、久保がこれまで一緒に仕事を

やってきた元同僚や友人など、この社会的意義の高い事業に共感し、皆が協力してくれた。

これまでの久保の経験から、普通であれば1ヶ月で取引先を探し、部品の承認まで完了することなど

あり得ない。しかし多くの人の協力があってこの膨大な作業をやり遂げることが出来た。

そして2020年12月1日、ついにVibone Nezuが誕生したのだ。


改めて感じた事業の社会的意義

発売後、神戸市内で試聴会を開催した際、10代の女の子が母親と共に試聴に来てくれた。

聞くとその子は生まれながらにして右耳が全く聞こえないらしい。試聴してみると最初は

聴こえなかったが、15分ほど聞いていると「右耳から聴こえる!」と嬉しそうに教えてくれた。

母親も一緒になって喜んでいた。

久保はこの様子を見て、この事業に携わって本当に良かったと思った。

「今後もこの商品を更にアップデートし続け、聴こえに困っている多くの人々に福音を届ける」

改めてそう決意した。


10年以上の長い時間をかけて辿り着いたVibone Nezuの商品化。「伝音性難聴にとどまらず

感音性難聴の方も聞こえが改善した!」と多くの声が寄せられている。また、聾の方にも

「音を始めて感じた!」という方が現れているのは特筆すべき内容だ。

もちろん全ての人が聞こえるわけではないが、聞こえにあきらめている方は是非、試して頂きたい。